
しかし、そんな対策をしても住宅市場は今までのような形で動かないだろうと筆者は見ている。問題は補助金で工務店や施主の経費負担を軽減することではない。ロハスをコンセプトにした提案性の高いリフォームで年商40億を上げているリフォーム会社の部長は、今の不況と住宅市場について「消費者は購買意欲はあるが、購買動機がない」と分析する。まさにそこに問題があるのだ。
日本もモノ余り時代を迎えて欲しいモノがなくなったと随分前から言われてきた。ただ住宅のみは欲しいモノランキングの常に上位にあり、売れ続けてきた。これまでローコスト住宅が売れ、分譲住宅会社が繁盛し、タマホームが1万棟を超えたのもこのお陰であったと思う。しかし、最近の住宅市場の流れを見ていると、どうも今度こそ本当に欲しい家がなくなってきたのではないかと思うのである。つまりリフォーム会社の部長の言うとおり「購買動機がない」時代に入った感じがする。いくら補助金を出して「購買意欲(お金)」を刺激しても「購買動機(欲しい)」がなければ家は売れない時代になった。その変わり目が今回の不況で一挙に吹き出してきている。
では、これからどんな家が売れるのだろうか。200年住宅(長期優良住宅)は高性能であり、これから大型ローン減税で最優遇を受けるし良さそうだ。中古住宅もリノベーションで若い人たちに人気が出てきたし優遇税制も使える。省CO2省エネ住宅も地球温暖化対策で話題だ。そんなものだろうか。それらは補助金や優遇税制で購買意欲を満足させるだろうが、問題は「果たして購買動機を刺激するのか」ということだ。そこから考えれば答えは自ずから明らかになる。最大のポイントは購買動機を刺激する形と方法だ。筆者が考える答えは、「個性的なデザイン」と「供給方法(建築方法など)」だと思うのである。
最近筆者は、事務所のある浅草橋と原宿・竹下通りの先にある建築事務所を往復する機会が何度かあった。浅草橋はご存知の方も多いと思うが、人形の久月や吉徳などの老舗がある人形問屋街である。一方の竹下通りは10代の女の子が全国から集まるところだ。そこで、この全く異質な2つの町に意外な共通点を発見したというわけである。これが今後の住宅業界に大いに役立ちそうな気がする。
何故欲しいモノがない時代なのにこれらの町に人が集まるのか。浅草橋はひな人形や五月人形のシーズンに大賑わいとなるが、それ以外でも女性がたくさん集まってくる。何故かというとアクセサリーや手芸のパーツ、素材の専門店が非常に多いからだ。バーゲンの時などは専門店のビルを人垣が二重、三重に取り囲み、入場制限があるくらい集まる。竹下通りは、ブランドショップやタレントショップが軒を連ねていたが、それに替って今ではハンドメイドショップが人気である。今時の子供達はモノ余りの中で生まれ育ってきた。身の回りのモノが全て既製品である。だから今の若い世代は既製品としてのブランド品よりも、世界にたった一品しかない手作り製品を求めて、その手のショップに足繁く通う。そんな流行に支えられて竹下通りは相変わらず賑わっている。
浅草橋のひな人形・五月人形は世代を超えて子供の成長を願うという購買動機がある。そして手芸などの部品を求める女性はまさに自らハンドメイドをする人たちだ。以前に比べて素材やパーツの種類は非常に豊富になっているという。それだけ趣味の人口が増え多様になっているということだろう。