
一方で気になることもまた浮上してきた。住宅業界の商慣習の話である。今年初め富士ハウスが倒産したときにも問題になり、また先頃埼玉の中堅ビルダーの倒産でも問題になっている「工事代金の過払い」である。昨今住宅建築の請負では施主は契約時、着工時、工事中間、引渡し時など数回に分けて工事代金を支払う契約が一般的である。富士ハウス等では、業績不振ゆえのサギまがいの行き過ぎた営業活動が問題となったが、そこから一歩引いて冷静に考えてみると、これらの事件で業界のこうした商慣習が露わになったということでもある。それは、住宅請負では常に施主側が代金の過払い状体になっているということである。
あるビルダーでは契約時に3分の1、着工時に3分の1をもらい、着工時には、工事の出来高が殆どゼロであるにもかかわらず、契約額の6割方入金されているというのだ。リフォーム会社では着工までに8割支払ってもらう契約をしているところもある。こうした施主の過払い状況は、住宅会社の規模にあまり関係なく最近はよく行われている。経営の効率化ということでむしろ励行されてきた。
しかし大きな企業でも一寸先が闇であり、いつ工事を継続できなくなるか分からない時代だ。そんなこと分かってしまえば施主だって代金の過払いなんか出来ないし、したくない。さらに悪いことに、このような出来高とリンクしない過払い案件では、完成保証も役に立たないことが分かってきた。
上記の埼玉の中堅ビルダーでは完成保証に入っており、万が一倒産しても完成保証が付いているので安心して工事が継続できると言っていたらしい。しかし契約者の状況を見ると、富士ハウスの例に漏れず、多くが過払い状況に至っていた。保険会社も契約書にない過払いが随分あるということで対応に苦慮しているのだ。そんな例は全国で起きているようで、最近保険会社もあまり積極的に完成保証を進めなくなっている。
つまり「工事代金を全額先払いすれば200万円値引き」などというセールストークは、施主にとって全く危険きわまりないものだし、業界にとっては自ら首を絞めるだけである。しかし問題点はそんなことではなく、施主に過払いを求めざるを得ない住宅業界の“商慣習”である。この問題に関しては国も注目しており、業界のこうした商慣習、経営体質を把握している。先日国交省の人と話をする機会があったが、工事進行や出来高をちゃんと把握できる方法に、ガイドラインを検討する意向もあるようだ。そのうち長期優良住宅の要件として、安心して住宅建築が出来るようにという理由で、工程管理や出来高管理をしっかり求められるようになるかもしれない。