
この欄で何度も長期住宅について述べているが、まだ多くのビルダー・工務店は普及するはずがないと思っているはずだ。しかし国交省では21世紀の住宅施策について、10年も前からさんざんに検討を重ね次々と法律を作り、やっと「量から質への転換」、「良いものを長く使う」、「資産価値の向上から中古住宅の流通促進」というところにたどり着いたものである。6月から始まった長期優良住宅普及促進はその最終形である。200万円の補助金がもらえる「長期優良住宅先導的モデル事業」や今年6月から受け付けを開始した100万円補助の「長期優良住宅普及促進制度」などは、今年だけで総額170億円、50億円と大金を掛けて、その普及・PRを目指しているのだ。
ところが、である。そうした大々的な予算がついているにもかかわらず効果が明確に見えてこない。表向きは住宅業界への経済対策であり、その面でも効果が判然としないのは困ったことである。先導的モデル事業に至っては技術的なハードルが高いなどの理由で、評判があまり芳しくない。実際の建築でも長期優良住宅の性能を求める積極的な施主は少数派のようで、税制優遇や補助金に食いついてくる方が多いのが現状だ。ただし、少しでも面倒なことがあれば「いらないよ」といわれてしまう、と補助金を受けている会社の担当者はぼやく。また100万円口の補助金の方も長期優良住宅認定を取るだけで先着順でもらえるが、手続きや実績報告がどうも煩雑そうであり、どうなるか分からない。
そんなところへ、キムタクのチラシで「長期優良住宅」とやったわけだ。感度の高い住宅購入層にはそこそこ長期優良住宅の名前は浸透していると言われるが、今回は全く関心も興味もなかった多くの一次取得者層のアンテナに引っかかったことだけは確かだろう。しかも長期優良住宅ではなく、長期優良住宅「仕様」としたところが、タマホームらしいマーケティングのうまさかもしれない。
何が違うのか言えば、価格だけだろう。そんなことよりも、最も今後の業界の影響を与えそうなのが、長期優良住宅の性能・仕様が住宅性能の一般的な基準として掲げられたことだ。何しろタマホームが始めるのだから、いやキムタクが宣伝するのだから、これまでの公庫仕様やら高耐久仕様をはじめ次世代省エネ、高耐震……などという言葉より、住宅性能を表す言葉として、「長期優良住宅仕様」は最も普及するのではないかと思うのだ。それは手続きが面倒な補助金や認定をもらうより、浸透力がありそうだ。
仕様の中身だって、これまでと違って性能評価を元にして分かり易くなっている。一般の工務店が一番苦手な次世代省エネ基準などは、今回このために基準が緩和されたかもしれないと思われるほどで、相当隙間面積の基準値=C値が削除された。これによって次世代省エネは施工の難しいものから、断熱材・樹脂サッシなど製品の仕様で簡単に作れるようになる。特に複雑な屋根形状になりやすい注文住宅などではC値の項目が外されたことで、よりやりやすくなるはずである。
そうすると、一般工務店が主戦場とする地域の注文住宅市場でも、これらの省エネ仕様が一挙に普及する可能性がぐんと大きくなったのである。そして、それは長期優良住宅仕様にぐっと近づく。なぜなら、あとは構造の劣化対策、耐震性を高め、住宅履歴をくっつければ長期優良住宅の一丁出来上がりとなるからだ。地域の工務店でもこれまでの厳しい競争の中で、性能表示をするところも多かったので、構造の劣化対策、耐震性は既にできているところも多いだろう。残るは住宅履歴のみだ。
これについても、住宅履歴を保存・活用機関となる“情報サービス機関”のエントリーが8月から試験的にスタートする。
あれよあれよという間に長期優良住宅の普及の土台が出来上がりつつあるのである。機をみるに敏なタマホームのことであるから、長期優良住宅「仕様」とは言いつつ、しっかり住宅履歴の保存活用の策を練っているに違いない。情報サービス機関にはどこがなっても今のところいいので、地域をまとめて早速エントリーし大手に対する対抗措置を取っておきたいものだ。