
一方で、これだけ優遇策があるのに何故消費者は住宅購入を控えているのか。一つには収入源、雇用不安、年金問題などがベースにあることは確かだが、業者、業界に対する不信感の増大も大きな要因だ。実際に瑕疵担保責任保険が今月からスタートしたが、消費者は完成保証を求める人が非常に多くなっている。そして逆に業者は完成保証制度に加入できないところが多いという逆の現象が起きている。そして保険会社も完成保証を積極的に扱うところがない状態だ。そんな中で長期優良住宅が、高性能、優遇策を受けられる安心感などで売れているという図式が浮かんでくる。
ところが、戸建住宅はそんなハイスペックなものばかりが売れるわけがない。その隙間を突いて戸建て分譲住宅がまた売れ出しているというのだ。今消費者が注文住宅を建てようとすると、今までにないくらい大きな障害を何度も乗り越えなければならなくなっている。地盤、業者、施工、ローン、保険などなど心配の種は尽きない。また個人の信用が収縮している時代なので、ローンもなかなか付かないし、最近ではつなぎ融資が至難の業となっている。最も心配なのが業者で、「完成保証は本当に大丈夫なのだろうか」となる。
そんなものが一切関係ないのが分譲住宅だ。住宅を実際に見て買うだけ。完成品だから完成保証を気にすることもないし、品質は瑕疵補償が義務化されたので安心というわけだ。国は消費者が安心して住宅を建築、購入できるようさまざまな法律や制度を作ってきた。しかし手続きの煩雑さや法対応の難しさは業者だけでなく、」消費者にとっても苦痛である。今地価が安いこともあるが、何にもまして分譲住宅が便利なことは「見て買える」ことだ。
それと、同じような理由で動き出しているのが中古住宅の大規模改修だ。こちらはマンションのリノベーションが中心だか、そのうち戸建住宅が大きく動き出すことは間違いないだろう。国は長期優良住宅の最終目標を中古住宅流通の増大に置いており、その一環として先月「既存住宅の流通・リフォームにおける評価手法等に関する技術検討会」なる委員会がベターリビングで開催されている。これは中古住宅を大規模改修して販売する際に瑕疵保険が必要となるから、検査部位や性能評価の方法をちゃんとしておこうというものだ。瑕疵保険機関では新築と同様な既存住宅の保険を用意しつつあり、制度化を急いでいる感じだ。そうなってくると、こちらも新築と同等の性能、安心感が担保されれば十分に商品価値を持つことになる。あとは、改修コストがどれくらいになるかだが、更地に新築する場合に比べれば、こうした評価制度や保険が充実していけば楽なはずだ。
そうやって見てくると、今後住宅の市場は注文住宅や分譲住宅、新築とリフォームという単純な構図ではなくなる。長期優良住宅は新築市場で今現在は目立っているが、注文住宅を「どうやって自分の気に入った住宅を手に入れるか」という消費者サイドの購買動機の視点からあらためて見直すと、注文住宅市場のライバルは長期優良住宅ではなく、簡便さという新たな価値を浮かび上がらせてきた分譲住宅や、長期優良住宅の最終形である中古住宅となってくる。古き良き時代の注文住宅市場は無くなりそうだ。