
自動車や家電産業は、ものづくりの技術だけでなく、商習慣や消費者サービスなどほとんどの部分について、ゼロから今日のスタンダードを築いてきた。それは衣料でも食品でも今日大きく成長した業界はすべて同じだ。しかし住宅産業は、自動車産業と同じく20兆円の市場規模を持つものであるのにもかかわらず、業界全体での標準化とはあまり熱心に取り組んでこなかった。特に戸建て住宅の生産は前述したように伝統技術や大工技能といった過去の偉大な資産の上に乗っかってきたものであり、業界のスタンダードは全てそうした資産からの借りものであった。一番目の問題の住宅の商品化では、住宅を商品としながらも客との取引関係は、売買契約ではなく請負契約のまま、現場を大工に任せっきりでその上に形ばかりの商品を作ってきた。そのことが施主と元請けだけでなく銀行や納材業者を巻き込んだ複雑な与信関係の輪を作り、今日の怪しげな商習慣、制度が生まれる結果となり、様々な問題や事件を引き起こしてきた。
ものづくりの標準化では、今日ようやく四号建築物の特例廃止がいま俎上にあるが、木造住宅の大多数を占める「いわゆる在来型工法」では、現場の標準化が何ひとつ整っていない。木造住宅については地域、大工個人によってさまざまな規矩、架構、納まり術が千差万別であり、基準法や告示はそれを追認する形で進んできた。
それは大工技術の多様性を並べただけであり標準化ではない。三番目の問題であるプレカットとも絡むが、現時点でもプレカット材の標準化や仕様統一が話題にならないことがそれを如実に示している。プレカット材の標準化や仕様統一ができるのであれば、架構方法も統一されるし、現場生産も担当する大工によって異なることはなくなる。生産性も上がる。さらに言えば施主との打ち合わせも早くなり営業生産性も上がるだろう。
しかし、こうした標準化が進まない一方で、安心・安全の観点から防火や耐震について厳しい法規制が行われてきた。特に阪神大震災以降、耐震性についてはことさらに厳しくなった。また今年から瑕疵担保責任履行法で保険等が義務化された。現場の検査なども一層厳しくなってきた。ただ検査基準がいくら厳格でも、こうした木造住宅が千差万別の価値判断で建築されているので、検査する側の能力は相当必要になっている。ところが、二番目の問題点として前述したように、経験豊富な技能を持つものや判断できるものはどんどん少なくなっている。それゆえ、こうした新しい制度を運用していく上からも、住宅生産を円滑にするための標準化が緊急に求められるようになっていると思う。
つまるところ、この4つの問題は、業界事情や慣習、さらには戦後構築されてきた、いわゆる「工務店」的なもの、「大工」的なものが如何にこれからの住宅産業の生存、発展に害をなすかを問うものである。
そしてまた、そうした弊害を排除して今後の住宅供給、現場生産は誰が責任を持ち誰が行うか。住宅業界が、新たな産業となるためには、いままであった「工務店」的なもの、「大工」的なものとの決別が必要とされている。