
そうなると、10年後の住宅の現場生産能力はどうなるのか。木造住宅に換算すると、大工1人で年間150坪と生産性が向上しても、仮に20万人全員でやったとして3000万坪、80万戸程度しか生産できない。大工の活躍の場は木造住宅だけでなく、ビル・マンション、店舗、リフォームなど幅広い。特に今後増大が予想される大規模リフォームではベテランの大工が大量に必要になる。マンション等での生産性は木造住宅の倍以上であり、リフォームではその逆なので、どこまで現場生産力が不足するかはすぐには測りがたいが、それぞれの分野で今以上の生産性向上を図らなければ対応できないことだけは絶対に確かである。
もし10年後に大工が15万人程度に大きく減少することにでもなれば、木造住宅の生産能力は実質的に20万戸程度しかなくなると危惧する。一方で、入職者は年間2000人程度でしかないので、余り多くは期待できない。
これからの10年間を見れば、住宅、公共建築物、リフォームなど需要は旺盛である。その中で職人の急激な減少で現場生産は危機的状況が続いていく。それに対して、業界はどう対応しなければならないのか。
考えられる対策は2つしかない。一つは緊急且つ大量な職人または新たな現場作業者の育成である。もう一つは1人当たりの生産性向上(倍増以上)である。しかし、現実的な対策はたった一つしかないことは、実際に現場で働いてきた皆さんなら分かるはずである。
職人、特に大工を即席で育成することは不可能であるからだ。これまでは最低でも5年の修行期間だったし、10年でようやく一人前だ。現在はプレカットの普及で、現場から丸鋸やプレーナーが姿を消した。そのうち金槌さえなくなってしまうような現場作業である。そんな最近の現場環境でどれだけ大工としての基本を身につけられるのか甚だ疑問だ。
そうなると期待は、現場の生産性向上でしかない。つまり大工など現場作業者の生産性を倍以上にすることだと思う。こちらの方が実現性が高い。これまで何度か述べたことがあると思うが、大工の一日の木造住宅の現場生産量は、従来は0.3坪から0.7坪くらいの間だ。例えば40坪の家を建てる場合、大工の人工歩掛かりは60〜130人工程度のはずだ。最近では45日程度で大工工事が終わるものがあるから、1人工1坪の生産に近づいている。しかし、かつてプレハブ住宅の向上を調べたことがあるのだが、工場の生産性も1人工1坪程度である。それでは間に合わないと言うくらいの職人の減少なのである。
であれば、どうやって現場生産性を倍増以上にしていくのかである。これまで木造住宅では様々な合理化工法が生まれてきた。しかし、ここで述べているような大工の生産性を大幅に向上させることが出来る工法は生まれていない。なぜなら大工1人工1坪という壁を越えるものがほとんどないからだ。理論上や現場環境が整ったものでは可能かもしれないが、一般の施主から受注した注文住宅などにシフトすると中々乗り越えるのが難しい壁なのである。
乗り越えるヒントは、施工方法の標準化と部材の規格化である。つまり2×4のようなスタンダードな仕組みを再構築し、その上で新たに施工者の作業歩掛かりを規定し、新しい木造住宅とすれば現場の生産性は必ず倍増以上すると考えている。そのためには業界が一丸となって、標準化に取り組まなければならない。みんなでルールを作ってちゃんと守るというのが一番の近道なのだと思う。このルールは苦痛を伴うルールではなく、逆に利益をもたらすルールであると思うのだが。