
新政権が誕生して一年。経済再生を三本の矢を掲げてスタートすると、あれよあれよという間に円安、株価上昇となり日本経済が元気を取り戻したような気分になった。住宅業界で言えば消費税増税の決定で、駆け込み需要が一気に吹き出し、本当に忙しい一年となった。
しかし、住宅をはじめ建設業界は大問題に直面している。職人不足で現場が動かなくなっているのだ。これが年明け以降の見通しを一気に暗くしている。この欄でも今後の職人不足の深刻化について何度も述べてきたが、年末、年度末に向かって本当に現場が竣工できない事態があちこちで発生しそうだ。しかも、この人材不足は、現場職人だけでなく設計やプレカット工場の技術者など広範囲にわたってきた。
建設業界への若年入職さの少なさは国も認めるところで、現場技能労働者への対策にようやく本気になったところだ。少子高齢化が進むいま、今後あらゆる産業で人材不足の綻びが顕著になるはずだ。そうすると、消費税が10%になることよりも、こうした人口減少や高齢化による人材の不足が経済の足を引っ張りかねないと思うのだ。特に若年入職者の大幅減少の問題は深刻だ。どの産業でも現場に関わる要員の確保、育成はますます大切であるが、特に専門職となる職人や技術者などに若い人々をどう導いていくか、それが大変重要なポイントになってくる。
現実を見ると、入職者と退職者の数にはどうしようもないほどの差が生じてている。戦後生まれの団塊の世代と言われる世代(昭和22〜24年生まれ)は1学年にざっと270万人いたが、来年成人を迎える平成5年生まれは118万人、最近は110万人を切っている。つまり単純に言えば、昔は1つの仕事に対して、今に比べて2倍、3倍の若い人材を確保できる可能性があったということである。その中で人々は現場で知識や技能を習得したり、修行したりすることが出来たわけである。今現場にいる60代、50代のベテランの人々は、そうした中で生き残ってきたエリートなのだ。
ところが、出生数は1980年代以降毎年150万人、バブル期以降は120万人をくだっていった。加えて産業は半数以上が三次産業化、サービス産業全盛期の時代を迎え、若い人たちはITをはじめとして新しい魅力的な産業にどんどん就職していった。勿論給料も高かった。そうすると工場や現場は、このころから3Kといわれ始めて、どんどん入職者が減少した。特に徒弟制度という旧態の教育システムしか持たない大工をはじめとする建築関連の専門職の現場は、最も大きな被害者となった。その後建設現場の職人のところへは、大学進学率の上昇と比例するかのように勉強嫌いや落ちこぼれが集まってくるようになった。と言っては業界に失礼になるが、多くが「サラリーマンになりたいけど、職人でもいいや、職人しかなれない」という、「デモシカ」が入職動機として増加したのではないだろうか。そして、今日の目を覆うばかりの技能不足と若年入職者不足を招いてしまった。
住宅では先ず基礎屋がいないという。大工も全然足りない。クロス屋も足りない。ビル工事でも型枠大工がいない、鉄筋工が足りないなど、全職種にわたって職人不足、そして若い職人がいないとなってきた。ただ建設業許可は28業種あるが、どの業種で職人や技能労働者が本当に不足しているのか明確なデータは無い。そうであれば、不足の度合いを知るには、逆に業種毎のデモシカ職人の割合を考えた方がわかり易いかも知れない。○○屋のデモシカ職人度はどうだろうかと考えれば、自ずと答えは出てこよう。たぶん予測としては、デモシカ職人度の高い職種ほど技能労働者不足度は高いと思うのである。
では大工はどうなのか。本当にデモシカ大工が多いのだろうか。俗に最近は大工=大九ではなくて「大五、大六しかいなくなった」、「墨付けできるのは10人に1人」などと言われる。確かに50年前の手作業の時代に比べればひとり一人の技術力の低下はその通りである。が、それ以上に大工に必要とされる技能教育の制度自体が全く機能しなくなった50年だった。建築大工技能士をはじめとして専門職の国家資格制度も整備されたし、職業訓練校も全国に整備されたのだが、それすらも最近は受検者も少なくなってきている。また、訓練校では大工関連の科さえないところが多い。そうした状況が今日の大工不足を生んできたのだと思う。