そこで今、住宅関連、木材関連の業界では、大工がいなくても供給が可能な住宅生産の開発に本気で取組みはじめた。今見直されているのはパネル工法であり、国産での開発が始まったCLT(クロス・ラミナー・ティンバー)等である。また在来工法でも工場で壁面を構成する柱、合板だけでなく、断熱材、サッシ、胴縁まで組立てて現場に持ち込む工法を開発したところも出てきた。これなどは現場でも大工がいらない工法だ。さらに言えば、この20年の間にプレカット工場で木材を刻むことがほぼ100%になった。
そのため墨打ちや刻みができる大工が非常に少なくなったと言われる。構造躯体はすべてプレカット工場任せである。最近のプレカット工場の構造に対する技術力は、大工の能力に反比例してドンドン向上している。
これらの状況は何を意味するかというと、住宅の構造躯体は大工の手を離れて精度、品質のよい工場生産に移っていると言うことである。大工から躯体生産が離れてしまうと、どのようなことが今後起きてくるのかというと、躯体だけを供給する会社が多数生まれてくるということだ。つまり構造躯体=スケルトンが商品として成り立つと思うのだ。既にプレカット工場では、大工不足から建て方部隊を事業化しているところもある。こうしたビジネスが進めば今後の住宅供給は、スケルトン工事、内部造作工事、設備工事にと再編成されるはずだ。
ところが、まだ一切整備されていない部分がある。スケルトンはプレカット工場の対応や新たなパネル工法の開発などで環境が整いつつある。設備もメーカーが積極的に責任施工体制を作ってきた。内部造作工事は大工のテリトリーだが、その大工の減少を補うものは生み出されていない。つまりスケルトンに対するインフィル分野の考え方とその担い手が空白なのではないかと思うのだ。
しかし、大きく“インフィル”と叫んでみても、家の内部に取付けられるものや工事の内容はいままでと同じであるかもしれない。ただ、既存のスタイルでの内部造作工事では、家具や建具だけでなく、床、壁、天井にとりつけられるあらゆるものが衰退していくはずだ。その流れは、これまでの統計データを見れば分る。プラスにするためには、大工の仕事がスケルトンに切り替わるように、内部の仕事の範囲、製品、生産の仕組みなどを新しい概念で構築する必要があると思うのだ。
木製ガラス戸がアルミサッシに変わったように、住宅の内部ではタンスが収納に変わり、戸障子がドアにかわり、五右衛門風呂が給湯器とバスユニットに変わった。塗り壁もクロスになり、畳もフローリングになった。その中で1つだけ変わらなかったものは、何度も言うように大工であった。
その人達があと5年後には半減する。その時、だれが住宅の内部を供給する主役になるのかということである。
筆者の会社では、昨年から木造住宅のスケルトン分野を業界専門誌として「プレカットユーザー」を発刊、業界の皆様から好評を頂き、今秋には隔月発行に踏み切った。そして10月から「インフィル・テクノロジー」を出すこととなった。発刊の趣旨は、今述べたようなことだが、新たな分野を住宅に関わる皆さんと一緒に考えていきたいと思ったからである。死語となりつつある木工業界、家具・建具に関わっている人々が、インフィルという新たな産業の括りで再生出来れば、それは今後20兆円市場と期待される中古住宅流通、リフォーム市場でも共通のインフィル商品として認知されるに違いない。衰退の先には消滅しかないと思っていたものが、スケルトン、インフィルというくくりで見直すと、木材加工は本当に新しい産業として価値を生み出すと思うのである。
参考資料1:「建設業の減少」 pdf
参考資料2:工業統計調査「家具・装備品」 pdf